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第62回 KTGのクレーコート



 40年もの長い間、会員たちのプレーの舞台となってきたKTGのクレーコートが、2台のショベルカーによって掘り起こされている。工事は始まったばかりだが、あっという間にラインテープが剥がされ、昨日までここがテニスコートだったことが信じられないほど変わり果てた光景が目の前に広がっている。

 

 『ニューシネマパラダイス』という大好きなイタリア映画に、海辺の小さな田舎町の娯楽の中心であった映画館が、その役割を終え、住民たちの目の前で壊されていくシーンがあったけど、そんな感じ。

 

 思い出すのは大学に入る前、KTGでコート整備のアルバイトをしていた頃、毎日のように行った夏場の水撒きだ。「クレーコートは生きているのだから、水をあげないと」という当時の支配人の郷田先生の言葉を覚えている。真夏の強い日射しを背中に感じながら、1時間以上かけて水を撒いた。30分もするとホースを持つ手がしびれ始めたけど、クレーコートが水を浴びて喜んでいるような気がして耐えた。そうして仕上がったクレーコートは美しくて、早くテニスがしたくてワクワクした。

 

 僕だけではなく、郷田先生、長年それこそ命をかけてメンテナンスを行ってきた宮寺さん、そして、多くの会員の思い出がいっぱい詰まったKTGのクレーコートが、この夏、姿を消す。

 

 砂入り人工芝コートへ生まれ変わるにあたって、自分の中に大きな懸念があった。それは、この工事がきっかけでクラブを辞めてしまう人がたくさん出てくるのではないかということ。クレーコートがKTGの大きな魅力のひとつだったのは間違いないし、クレーコートがあるから入会したという会員さんを何人も知っている。クレーコートがなくなると、KTGのよさは半減してしまうのかもしれないと思った。

 

 話は変わって、最近、発見した美味しい蕎麦屋さんで昼ごはんを食べようと両親を連れて行ったときのこと。ご夫婦で店を切り盛りしているのだが、奥様と思われる女性の接客態度が感じ悪くて気分が悪かった。昼時の、ちょうど団体客が帰ったあとだったし、忙しかったのだろう。それにしても、それはないよなという態度と口調だった。お蕎麦はとても美味しいし、古民家風の店の雰囲気もいいだけに、とても残念だった。もう二度と来ることはないだろうなと思った。

 

 そうなのだ。いくら美味しい料理を食べられたとしても、いくら店のインテリアが素敵だったとしても、そこにいる人間によって店の印象はがらりと変わってしまう。最後はやはり人なのだ。

 

 最近、会員となった女性が「KTGはアットホームな雰囲気がとてもいいですよね」と言っていた。「いい人ばかりだよって、友だちが言うから入会したんです」と言ってくれた人もいる。大阪に行ってしまった姜ちゃんも「早くガーデンのみんなと会いたいです」と先日、LINEが来た。

 

 KTGの魅力とは何か。やはり「人」だと思う。クレーコートはもちろん、コート4面というサイズ感や、立地、リーズナブルな会費も魅力のひとつなのかもしれない。でも、最後にくるのは、そこにいる人間なのだと思う。ここに集う人間が、KTGの雰囲気を作っている。自分を含めたスタッフ、そして、ここに集う仲間ひとりひとりのパーソナリティーが、「KTGらしさ」を作っている。

 

 今回の工事がきっかけとなって、クラブを辞めていく人がいるかもしれない。しかし、クレーコートがなくなったとしても、なんらKTGの魅力は変わることはないと思いたい。むしろ魅力が増すのではないか。それを信じて、進んでいこうと思っています。

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