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第58回 紫陽花



 その痛みは何の前触れもなくやってきた。いや、もしかしたら前兆のようなものがあったのかもしれないけど、気がつかなかった。


 4月5日、フォアボレーを打ったとき、急に右肘の内側付近に痛みが走った。鈍痛というより激痛だった。バックボレーやバックハンドのストロークは普通に打てる。痛みを感じるのはフォアとサービスのインパクトのときだ。これがいわゆるテニスエルボー? 経験された方も多いだろうけど、自分にとっては初めての経験だった。


 ありがたいことに、僕はこれまでのテニス人生において、大きなケガをしたことがなかった。唯一、支配人になって間もない頃に、体重が増えた上に急にプレーする機会が増えたからか膝を痛めたけど、今回の肘は2度目の負傷だ。治療で訪れた整骨院で、先生にそう言うと驚かれた。「それはたまたまだと思いますよ」と先生。曰く、僕の体は硬い上に、筋肉がカチコチに凝り固まっていて、ケガになりやすい危険な状態だったらしい。たぶん、自分の知らない間にケガの芽が少しずつ育ち、今回、何かのきっかけで表面に顔を出したのだろう。なるべくしてなったと言えるかもしれない。たぶん、フォームも悪いのだと思う。


 それから1か月以上、ボールをまともに打てない日が続いている。エントリーしていたシングルスのリーグ戦だけは、相手の方が試合するのを楽しみにしているかもしれないと思ったので、「やれるところまでやろう」とプレーしたが、球出し練習会などはお休みさせてもらっている。


 運動はしなくてもビールを飲む量や食べる量は変わらないので、みるみるうちに太ってきた。恐ろしくて計ってはいないが、おそらく体重計に乗れば過去最高の数字が表示されるはずだ。大好きなテニスができない、鬱々とした日々。やっぱり「健康が一番!」ですね。


 でも、自分のテニスエルボーはおそらく時間が経てば治るからいいけど、もっと深刻なケガや病気、年齢による体力的なことが問題で、大好きなテニスをやめざるをえないという状況になったときの喪失感はどんなものなのだろう。さぞかし無念だろうと思う。


 この春、何人かがクラブを退会された。ケガが原因で休会されている方もいる。それぞれ事情があるのだろうが、いろいろと考えさせられるし、心が痛む。


 今日は5月の23日。外は雨。いつの間にか咲いた駐輪場脇の紫陽花の花が、しとしとと降り続く雨の中、幻想的に白く浮かび上がっている。もうすぐ本格的な雨の季節がやってくる。

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