第53回 テニスの神様に選ばれた男


 ラファエル・ナダルは好きですか? 僕は好きです。


 テニスに対して真面目なところ、そして、いつも汗だくで一生懸命なところがいい。どんな相手に対しても全力でプレーする。お金を払って観たい選手のナンバーワンです。


 試合中、イライラしてラケットをコートに叩きつけるナダルを見たことがない。よく激高してラケットを破壊する選手がいるけど、見ていてホント嫌な気持ちになる。ナダルは自分の影響力を知っているし、対戦相手はもちろん、大会関係者、用具を提供してくれているメーカー、観客、メディアなど、自分そして大会を支えてくれているすべての人をリスペクトしている。だから、ラケットを叩きつけない。


 つい先日のメキシコでの大会ではこんなことがあった。ズベレフが審判台をラケットで何度も叩き、審判に暴言を浴びせて大会を追放されたのだが、そのことについて意見を求められたナダルは、もっと厳しい処分を講じるべきだとコメントした。

「僕たちはよい手本にならなければならない。特に応援してくれている子どもたちにとって」


 今回、なぜナダルのことを書きたくなったというと、この間、何年かぶりにやったテニスマガジンの仕事で、ナダルのプレーをじっくり観たから。オーストラリアン・オープンの決勝を、元デビスカップ日本代表選手で、引退後は杉山愛さんを指導、現在は森田あゆみプロ、内藤祐希プロのコーチである丸山淳一さんに解析していただき、それをまとめるという仕事だった。そんなわけで、久しぶりに集中して決勝をTV観戦した。観た人いますか? なにしろ5時間24分のロングマッチだったから、最初から最後までじっくり観戦した人はあまりいなかったと思う(実は僕も、途中、眠気に襲われ意識を失いました)。


 前半はメドベージェフがナダルを圧倒し、このまま簡単にストレートで勝利するかと思われたが、なんとナダルは2セットダウンから試合をひっくり返してしまう。

 ファイナルセットでのナダルのパフォーマンスはどこか神懸かっていて、疲れの底から力を絞り出したプレーには凄みがあった。ナダルの底力に、メドベージェフは最後の最後で呑まれてしまった。

 表彰式が行われている最中、ナダルは立っていることができず、ひとり椅子に座っていた。おそらく彼の体力は限界を超えていたと思う。精も根も尽き果てた様子だった。


「あの試合を観て、ナダルというプレーヤーは、テニスの神様に選ばれた人だと思いました。おそらくこの日のナダルには誰も勝てなかったんじゃないかな」と取材時に丸山さんが言っていた。あのファイナルセットでのナダルは、確かにそう思わせるオーラを漂わせていた。何か大きな力に体が動かされているというふうにも見えた。


 ナダルは表彰式のあと、記者会見などメディア対応をして、それからジムに行き、マシンを漕いだという裏話を聞いた。ホテルに戻ったのは朝方だったとか。「おそらく日々のルーティンなのだろうけど、びっくりですよね。今日はもう遅いからやめとくか、というふうにはならない。そういう選手がグランドスラム大会で21回も優勝できるのでしょうね」と丸山さん。


 昨年8月に左足を手術し、ほぼ半年ツアーから離れた。復帰の手始めに出場した暮れのドーハでコロナに感染してしまう。そして、迎えたオーストラリアン・オープン。

 大会前、こんなことを言っている。


「今日は失敗でも、全身全霊で挑めば、明日は成功するチャンスがある。僕は自分にそのチャンスをあげたい」


 自分を信じ、日々、全力を尽くしているからこその言葉。テニスの神様がナダルを選ぶのも納得ですよね。

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